「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」15

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

15.
 木々で囲まれた広い裏庭に、動物園ばりに背の高いケージがあった。
 その中に体躯たくましいロットワイラー犬が10頭、ケリーとホセの姿を認めると、尾を振って振って振りまくる。なかでもエキサイトの激しい数頭は、後ろ足だけになって立ち上がり、網に飛びかかるようにジャンプしている。ジャンプすると確実に人間の背丈を超え、デイヴは、あれが全部飛びついてきたら……といらぬ想像をして、やっぱり今日は帰ろう、今日はって言うか、もうロブのこともどうでもよくなってきた、と思った。サンフランシスコに帰ったら、ネットでドラマーのオーディションの検索をしよう。
 ロブに、俺がなんとかする、と宣言してきた手前、情けなくはあるが、ケリーだけならまだしも、メキシコ人にすっかり調子を狂わされた。
 ケリーがそのメキシコ人にケージの扉を開けさせると、犬が一斉にばねに弾かれたように飛びだしてきて、庭に散らばった。庭は一見木々に囲まれているだけのようだが、その向こうに背の高いフェンスがあり、犬の脱走を防いでいるようだ。
 走り回る犬を眺めながら、デイヴはケリーの犬にまつわるストーリーを半時間ほど聞かされまくった。ロットワイラーは尾を切るんだがうちは切っていないとか、将来はブリーダーになるつもりだとか。
 デイヴは全部聞き流して『帰ります』の一言を出すタイミングをはかることだけに集中したが、ケリーの多弁は想像以上だった。
 ロットワイラーに関する概要説明が終わると、それぞれの犬に関して、出会ったきっかけや性格を語る。そのたび、ケリーは説明対象の犬を自分のもとに呼ぼうと声を出すのだが、ことごとく無視されていた。
 ホセはと見ると、犬たちが外に出ている機会にケージの掃除でもしようとしているのか、餌入れや水入れを外に運びだしている。餌入れのひとつを手にしてケージの出口に向かい、餌入れがケージに偶然ぶつかると、その音に反応し、犬の何頭かがホセのもとに馳せ参じた。ホセはスペイン語で何か言いながら、犬の頭をなでる。
 ケリーはそれを見ると、「ふん」と言いたげに自分の鼻を触って、
「そう言えば確かにそろそろメシの時間だな」
「えっ、さっき昼飯食べたばっかじゃないですか」
 デイヴが言うと、
「犬だ犬、ホセ、ちょっと早いがメシをやってくれ」
 ホセはあいまいに返事をして、不満げに、ついさっき外に出した餌入れを全部ケージに戻した。『掃除するつもりだったのに』と言うのも面倒なのだろう。そして餌を取りにいったのか建物の中に消えた。
 餌入れがケージに戻った時点で、犬たちは勘をひいたのか、軽快にケージ内に戻ってきた。むだな部分が一切ない肉体は美しくさえあるが、その戦闘能力を考えると、やはり脅威でもある。
 ホセが大きなトレーを抱えて戻ってきた。ケージに近づいてくると、デイヴにトレーの中身が見えた。生肉だ。ケージの中にいた犬が出てきてホセにまとわりつく。ホセはまたスペイン語で犬に話しかけながら、ケージに入った。もちろん犬たちも続く。
 そして。
 トングで肉をつまみ、餌入れに入れようとしたところで、ホセの動きが止まった。
 ケージの奥、さっきまで水入れがあったあたりに首を伸ばした。
 ケージの外にいるケリーとデイヴに振り返って、「ケリーさん、あれ何」と言った。
 ケリーが「何ってなんだ」と言い、ホセの手招きに素直にケージに入った。
 ホセは「あれ、何か、黒い」と奥を指差した。
 ケリーが「はあ?」と言いながら奥に向かった。
 ホセはトングにはさんでいた肉をトレーに戻した。
 そしてトレーを抱えたまま瞬速でケージを出、扉を閉め、錠をおろした。
 何が起こったか一瞬把握しかねたデイヴに届く錠の音。
 それはもちろんケリーにも届いたとみえる。
「何も……」
 と呟きながらゆっくり振り返る。状況把握に、やはり時間を要しているらしい。さきほどの呟きの続き、「……ないぞ……」をいちおう言ってから、ケージごし、ケリーはホセに呆けた視線を送る。
 デイヴが「ちょ……」と言って止まると、ホセが口を開いた。
「私、今日でやめてやります、今月の給料はいらない、今日で、アディオス」
 
(16につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm