「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」14

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

14.
「パイその7はうまくないか、やっぱりターメリックがトゥーマッチか、しかしあのくらい入れないとかぼちゃ色にならない、じゃがいもに生クリームとターメリックとパプリカで色だけかぼちゃになる、ペロンはじゃがいもと肉と豆しか食べない、私困る」
 午後五時、食事があらかた終わり、ケリーがトイレのために席を外すと、ホセがデイヴの横に来て早口で言った。
 パイその7を半分しか食べていないことに対する発言のようだが、デイヴは、
「ペロンって?」
「ケリー。ノーヘアー、ノー、ナッシング」
「……ああ、『ハゲ』のスペイン語ね」
「ペロンはうるさい、最初雇われたとき、毎日ミートパイ出したら怒った、肉が好きだと言うから出したのに、それから私、がんばった、パイも10個考えた、しかしこないだチリコンカーンをトマト抜きで作ったときもペロン怒った、トマトを入れないぶんチリをムチョ入れたらムチョ辛いと怒る」
 ホセはなぜだかあまり息継ぎをせず話すため、聞いているデイヴのほうが息があがりそうになる。
「ホセ、何をごちゃごちゃ言ってる」
 ケリーの声に、デイヴがほっとしたのも束の間、リビングで電話が鳴った。受話器を取ったケリーは、
「へええい、スイートハート、どうしてゆうべ電話くれなかったんだい」
 と気持ち悪い声を出してから、来客がいちおう存在しているのを思い出したのだろう、「しばらく席を外す」と強面に戻って再びいなくなった。
 もう今日は帰ろうか、とデイヴの気持ちがたそがれてきたのをよそに、ホセは話し続ける。
「ペロンの彼女はすごい美人、でも遠距離恋愛、SLAYERのツアーがないとたまにここに来る、彼女すごくいい人、どうしてペロンとつきあってるかわからないくらいいい人、でも私怒る、なぜって、彼女来たら、彼女が料理する、私、動物の世話でここに来ると、ペロンは彼女とごはん食べてる、そしてなぜか野菜を食べてる、すんごい、ひきつった顔しながら食べてる、ペロン、彼女には野菜食べないこと隠してる、一度、私がケリーさんトマト食べて大丈夫か、と訊いたらまた怒った、しっしっと追い払われた、いくら私が使用人だからって『しっしっ』はないと思う、思わないか、お客さん」
 ホセに気圧されてデイヴがつまっていると、
「私、ペロン嫌い、給料いいから働いてるけど、ペロンは嫌い、パイの味つけにうるさすぎる、私、がんばって調味料と材料の割合を変えてパイを10種類作った、でもちょっと割合を間違えると『これはパイその3じゃなくて4じゃないか』と怒る、こないだは1日に7回も怒られた、怒られるたびに悲しくなる、夜もペロンの顔を思い出す、私寝れない」
「……って言うかそれはパイ以外の料理を出せばいいだけの話ではないかと――」
「デイヴ、犬見るか?」
 いちおう来客を慮ったのか、電話を早めに終えてケリーが戻ってきた。
「ホセ、まだごちゃごちゃ言ってるのか、あ、さっき電話で言ってたけど、明日からエレナが来るからな、メシは作らなくていいぞ、今回は一週間もいてくれるらしいから助かるよ、そろそろホセの料理にも飽きてきたしな」
 デイヴはやはり、ホセの顔に血が上ったのを見逃さなかった。今回はそれだけでなく、ホセの目が三角につりあがっていくのがわかった。
 が、ケリーもさすがにそれに気づいたのか、
「なんだ、冗談が通じないヤツだな、もっと英語のジョークを勉強しろ。それよりケージのカギを持ってきてくれ」
 ホセは目をつりあげたまま歩きだした。
(15につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm