「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」13

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

13.
 玄関に出たのはケリーではなかった。
「ケリーさん、中、いる」
 肌の浅黒い男は、アメリカ生まれでないのが明らかな英語でこう言って、デイヴを案内した。
 ケリーは、窓の多い、解放感あふれるリビングにいた。
「ちょうど今から昼飯なんだ」
 と午後4時に言うケリー、デイヴは持ってきたビールを渡し、差しだされた手を握る。
 ケリーは玄関に出た男を料理人のホセだとデイヴに紹介し、歩きだした。
「ケリーさん、お客さんは何食べる」
 ホセがケリーの背中に訊くと、
「俺と同じでいい」
 20平方メートルほどのリビングの一角が階段3段ぶん低くなっており、そこに10人ぐらいかけられそうなダイニングテーブルがある。ケリーに続いてデイヴもそこに向かおうとすると、腕を軽く触れられた。
 ホセが小声で、
「あなた、普通でしょ、あなた、緑のもの食べるでしょ、私、自分で食べようと思ってた普通の料理あるから、それ、あげる」
 早口で言うホセの目が血走っているのを少々不気味に感じながら、デイヴがどう返そうと考えていると、テーブルのほうからケリーに呼ばれた。デイヴは、ケリーの声がしたとたんにホセの顔に苦味が走ったのを見逃さなかった。
 テーブルにつき、ケリーの前に並んだものを見て、デイヴはホセの言った『普通じゃない料理』を理解した。
 ケリーの前にあるのは、3種のパイだった。ホセが料理を持ってくる途中、「なんだこれは、今日はパイその7の日じゃないぞ」とケリーが突き返したことから推察すると、少なくとも7種のパイがメニューにあり、それを順繰りに食べていると思われる。
 大好物と喧伝されるチーズバーガーが並んでいないのがデイヴには気になったが、まさか、かつてロブが言ったことになっている、「チーズバーガーの食いすぎて脳の血管がつまっている」説を気にしているのだろうか。
 デイヴの前には、緑みずみずしいサラダと、赤が食欲をそそるトルティーヤスープが置かれた。パイは一種類だ。ケリーは「なんでデイヴだけ――」ととがめかけたが、「まあいい」とビールの栓を開けた。
 デイヴは、ほんとにパイが7種類もあるのか気になって仕方なかったが、訊けぬまま、スプーンを手に取った。
「スープ、うまいですね」
 デイヴが言うと、ケリーが、
「だろ? ホセは英語はダメだが料理は確実なんだ」
 デイヴは、「英語はダメだが」のあたりで、隣にあるキッチンにいたホセの顔がひきつったのを再びキャッチした。
 その後の話で、ホセは料理だけでなく、掃除とケリーが飼っている動物たちの世話も受け持っていることがわかった。SLAYERがツアー中は、家の留守を預かってやはり動物たちの世話をしているらしい。ここには、裏庭に10頭のロットワイラー犬が、地下に数十匹の蛇がいるのだ。
 と、ミュージシャンふたりが集まりながら、結局使用人やらアリゾナの気候やらフットボールやら犬やら蛇やらの話に終始した。
 それはやはり、MACHINE HEADの話題が封印されているからだ。
 いかにしてロブいじめの真相を聞きだすか……。
 それを考えると、デイヴは今いち食が進まなかった。
 
(14につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm