町田康/権現の踊り子

大分前から友人に借りてたの、やっと読了。
短編集で、「鶴の壺」、「矢細君のストーン」、「工夫の減さん」、「権現の踊り子」、「ふくみ笑い」、「逆水戸」収録。
  
これまで読んだ小説は「夫婦茶碗」と「人間の屑」だけで(あとは詩集)、こないだ映画で「けものがれ俺らの猿と」を観て、「夫婦茶碗」や「人間の屑」と比べるとあまりのワケ判らない展開に、これ文章でどうやって書いたんだろと思ってたのであるが、この短編集を読んで、大体のところは想像がついた(とか偉そうに)。どの話も有り得ない展開目白押し。
基本的に、「普通に理解しがたいものをありがたがって自分なりの解釈を試みようとするがある時点でその恥ずかしさに気付き理解しがたいものからは目をそらす」という人間であるわしからすると、彼の小説の主眼は、溢れる個性的な日本語の使い方と、たまにあるくだらない笑い、ということになる。
が、「ふくみ笑い」だけは、最後になって作者の言いたいことがまともに理解でき、従って、わしが一番好きなのはこの話である。最後に出てくる「紐のようなもの」の実体が何かきちんと説明されていたのも天晴れだが、前半において、主人公が、「自分以外の人間総てが結託して自分をバカにしている」との被害妄想(まあ最終的には被害妄想ではないのだけれども)を持っているのが単純に笑えてよかった。
  
町田康の文章全般に言えることだが、「音楽やってる人だから文章に小気味いいリズム感がある」と友人がゆうていて、賛成。
各言葉の意味とか、隠されたテーマとか、そういうのを考えてると果てしなく恐ろしいことになるので、単語の音価のみとか、用法の妙とか、「普通そんなふうに言わんだろ」ってとこしか考えない。例えば、「鶴の壺」なんかだと、主人公のPCが壊れて印刷ができなくなったとき、「印刷が中断せられました」というメッセージが出て、ってくだりがあるんだが、「中断」はいいとしても「せられました」はどうよとか、わしはそんなとこが好きなのであった。