知り合いにN市のOって町に住んでる人がいるんですがね、彼が「ハイパーインフレ」と呼んでる骨董品屋があったんですよ、じいさんひとりで守りしてた店なんだが、なんでハイパーインフレかと言うと、店に置いてある、廃品回収車からくすねてきたとしか思えない商品についている値札においてですね、ゼロが現代日本の経済状況からすると、ふたつみっつ多いかららしく。まあふたつみっつじゃんほんとはハイパーインフレじゃないんですが。とこれは私の友人へのつっこみ。
 
この骨董品屋、商品が売れることはほとんどなかったようですがね、じいさんはなぜか平気で暮していたらしいんですよ、日がな一日、店の前に赤い丸椅子置いてアーケードを往く人々を眺め、チャレンジャーな客が来ると骨董品(ということになっているもの)について手前の想像力のみで構築した物語を聞かせるという、そんなじいさんだったけれど、悠々と暮していたらしいんですな、なので、O商店街では、あのじいさんはほんとは大地主なんだとか、裏で不動産やってるとか、そもそも人間ではないとか、いろいろ推測しておったようですが、ってなぜ過去形で書いてるかと言うと、友人いわく、そのじいさんが突然いなくなったらしく。
 
じいさんの気まぐれで決まる閉店時間、もちろん気まぐれなので定刻ではないのだが、例えば夜11時を過ぎてシャッターが開いていることはそれまでなかったのであり、商店街のみなさん、夜中の0時になって、じいさんの店に誰もいなくて、夜中の1時になって、やっぱり店の明かりはついたままで、みなさん、翌朝の仕入れ等のため就寝の早い人々も多くいたのであるが心配なごようす、しかし夜中2時を過ぎてそのうち人もいなくなって夜が明けて、翌日も店は開いている、人はいない、まあついでに言うと、友人いわく、商品をくすねて行く者もいない、と言うか、友人は勤務先(中古音楽屋。音楽屋ってのが何かはよく知らない)もO商店街なため、ちょくちょく勤務先を抜け、骨董品屋の前を半わざとらしく通り、商品が盗られていないことを確認、しているわけでもなかったらしいが。
 
まあそんなこんなで、1週間、骨董品屋はまさに開店休業さながら、このあたりでやっと隣の区からじいさんの娘だというおばはんが店を見にきて、翌日にはおばはんの娘が「じいちゃんおらんくなった」と半泣きになりながらやってきて、私の友人、またまた勤務先を抜けて偵察に行っていたらしい私の友人は、「どこに行ったか手がかりはないの?」と娘さんに手を差し伸べたらしい。
 
このあとどうなったかはまだ聞いてない。