「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」18

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

18.
 
「2年前、日本でフェスがあっただろ。あのとき、ホテルが一緒だったのを覚えてるか? PANTERAとかもいたっけな……外国で普段の仲間に会うってのは、なかなかエキサイトするもんなんだよな、おまえもわかるだろ?
「あの日、うちのメンバーとPANTERAの連中は外に出払ってたが、俺は出る気にならなかったから、ホテルでうだうだしていた。そしたら、廊下でロブとばったり会ったんだ。
「ロブとはほんとに仲がよかった。ほんとにかわいいヤツだと思っていた。俺の髪のことをネタにしても腹が立たない、数少ない人間のひとりだったんだ。廊下で会ったとき、ロブはレストランに行こうとしていたところだったんだが、どうせなら俺の部屋でルームサービスをとろうと提案した。
「俺はいつものようにステーキを注文するつもりだった。ロブは何にするか迷ってて、そのあいだにうちのスタッフがなんか言いに来たんで、ロブにステーキを注文しておいてくれと頼んで、スタッフと話してた。平和はそれまでだったな……スタッフが去って……いちいち他人に何を注文したか訊く趣味もないし、俺はただ料理が来るのを待ってた……が。
「そのうち、あることに気づいた。ホテルの部屋にあるまじき匂いを感知したんだ。すっぱいような、すえたような……俺は必死に気のせいだと思い込もうとした。しかし、それが逃れられない運命だったと知るのに、時間はかからなかった。
「部屋の呼び鈴が鳴ったから、ロブがルームサービスを部屋に入れた。入れた瞬間、さっき感知したすっぱい匂いが襲ってきた……絶望とはこのことだ。テーブルに載せられたのは、俺のステーキと……ピザだった。
「このピザの赤さは今でも覚えている……トマトペーストが厚塗りされて……あの赤さもショックだったが、俺はロブがピザを選んだという事実が何よりショックだった。あいつ、よく知ってるのに……俺がトマトに地獄のような憎悪を抱いてることを……なのにピザを注文しやがったなんて。
「しかし、トマトが入った料理を俺の前で注文するヤツは死刑だと言うには遅すぎた。俺は我慢してステーキを食べようとしたが、部屋に充満するトマト臭には打ち勝てなかった。苦悶の表情で『今は何も食べたくない』とふりしぼるように訴えると、ロブは……ロブは、『あ、そうすか』とだけ言って俺のステーキも、全部……全部、食いやがったんだ! 『あ、そうすか』だぞ、俺の仲間で、俺がトマトに苦しんでるとき、そんな薄い一言で済ませるヤツなんて絶対いない、みんな、『トマトはこの世に生まれてきちゃいけなかったんです、ケリーさんは悪くない』と涙さながらに慰めてくれるんだ、それを、あいつは……。
「それから、MACHINE HEADを聴くと、歌詞が全部『あ、そうすか』に聞こえるようになった。特にラップがいっぱい入ってる3枚目がひどかったな、どの曲か忘れたけど、『あ、そうすかそうすかそうすか、あそ、そうすかそうすかそうすかそうすか、あ、あ、そ、そ、そうすかそうすか』って曲があっただろ、なに、ない? そんなはずない、今さらとりつくろうな、と言うか、あのアルバムは確か初回発売限定でケースがトマト色じゃなかったか、あれは実は俺へのいやがらせだったんだろ、そうだろ? なあ」
 デイヴは『いや、物騒さがウリのあんたのバンドかてアルバムジャケットに血の色ようけ使てるがな』と返しそうになって、咳でごまかすと、
「まあ、ロブも悪気は……って言うか……」
 ふたたび小さく咳をすると、
「まさか、まさか、まさか、今の話が理由だとは言わないですよね」
 ケリーは瞬きを数回してから、
「それ以外に理由があるか?」
 デイヴはなんと言っていいかわからず視線をさまよわせる。その視線が下に向かうと、犬たちが目に入った。餌を諦めたのか、彼らにもケリーの告白のアホらしさが通じたのか、しらけた顔で地面に横になっている。
「えーっとね」
 デイヴは着ていたパーカーのポケットに入れていたカギを取りだした。
「わかりました。それは大変でしたね。ロブにはもっと他人の苦しみに敏感になるように言っておきます」
「おまえも反応が薄いなっ。それだけかよっ。ああそうか、わかったよ、そういう集団なんだよ、MACHINE HEADってのは。そんなんじゃ熱い音楽は作れないぞ、あのな、メタルってのはな、しつこいくらいでいいんだ、ムダに熱くていいんだ、そのムダさが人への同情心を育むんだ、だからSLAYERは――」
 続く言葉を「はいはい、そうすか」と聞き流して、デイヴはケージにかかっている南京錠を手に取ると、顔を上げ、
「あ、そうだ、重要なこと言い忘れてた、今後インタビューで俺たちの悪口はやめてくださいよ、って言うか、言うのは勝手だけど、ちゃんとさっきみたいに、ロブに冷たくされて傷ついたとかステーキを取られたとか、正直に理由を言ってくださいね、俺たちの音楽は何も関係ないじゃん」
 最後は文句になったが、デイヴはそう言いながら、南京錠を開けた。このカギが、MACHINE HEADの未来も再び開いてくれる。そう思いながら。
 
(19につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm