「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」9

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

9.
 キーワードは『ちぇけらメタル』だ。
 デイヴはケリーの捨てぜりふを聞いて、確信した。
『ちぇけら』とは『Check it out』のことで、ラップの歌い始めなどでよく使われる言い回しである。
 これをロブがMACHINE HEADで使い、ボーカルスタイル自体にもラップ的要素を取り入れることもあったため、『ラップメタル』だとか揶揄されていたのは確かだった。
 ケリー・キングは、MACHINE HEADがラップを取り入れたのがよほど我慢できなかったのだろう。
 しかし、デイヴにはひとつ腑に落ちないところがあった。
 実は、ロブがラップ的要素を取り入れたのは、ケリーを敵に回してしまったアルバム、『Supercharger』よりひとつ前の作品からなのだ。
 しかし、そのときは、ケリーはMACHINE HEADを公然とけなすことはなく、ロブとも友人を続けていた。
 それなのに、なぜ『Supercharger』になって突然たたき始めたのか。
 ここが一番のカギなような気がデイヴにはしている。
 そう思いながら、『Supercharger』のヨーロッパ・ツアーが終わり、2002年の春、MACHINE HEADはオフに入っていた。
 3月中旬は、アイルランドの祭り、聖パトリック祭がある。アイルランド系であるデイヴは、7年前にアリゾナからサンフランシスコに出てきてから、祭りの前の週末に毎年パーティーを開いている。まあアイルランドの祭りであっても集まるのは様々な出自の人間、つまりみな、何か名目をつけて呑みたいだけなのだ。
 MACHINE HEADに入り、経済的にも幾分かましになったので、少し前にサンフランシスコのオークランド、妻と一緒に2LDKのアパートに移り住んだ。
 そこでパーティーを開いているわけだが、音楽関係の人間たち、それ以外の知り合い、妻の友人、そういった顔が20名ほど揃っているところ、同じくパーティーに来ていたロブを見て、何人かが同じ発言をした。
「ロブも結婚してすっかり落ち着いたなあ」と。
 ロブはすでに去年の頭には結婚していたが、それ以来会っていないメンツが、ロブがおとなしくなったのは結婚したせいだと思ったようだ。
 実際は、しょんぼりした状態がロブの通常の姿になってしまったのは、あのミラノの一件のせいだ。
 あれ以来、普段は猫背で伏目がち、ライヴだけ昔のように威勢よく行うという、すっかり二重人格の人となってしまった。
 ロブは今、ダイニングで背中を丸めながら黙々とパソコンに向かっている。ネットでもやっているのだろう。隣のリビングで鳴っているにぎやかな音楽を背に、その背中はより侘しく見えた。
 当然ロブにとっても今日のメンツはほとんどが顔見知り、次々声をかけられていたが、かつての多弁さはすっかり姿を消し、『結婚してすっかり落ち着いた』の一言が、話しかけた人間から出るわけだ。
 デイヴは、かけていたCDを少し落ち着いた音楽のものに替えると、
「また何かインタビューを探してるのか?」
 冷蔵庫にビールを取りにきたついでに、ロブの背後からパソコンの画面を覗きこんだ。
 ロブは、悲しみが訪れるとわかっていながら、ついケリー・キングのインタビューを探してしまうらしい。そのたびに内容の報告を受けるデイヴは、毎回「おまえはマゾか」とつっこんでいる。
 以前は、ロブを傷つけないよう細心の注意を払っていたのだが、今は好き放題言っている。普段からしょんぼりしているということは、逆にこちらが何を言ってもしょんぼりされるということになるわけで、だったらもう何を言っても同じだ。トイレにも好きなだけこもらせている。
 デイヴはイスをロブの隣に持ってきて座ると、アイルランドビール、ギネスの缶を開けながら、
「今日は? ケリーのヤツ、今日はなんて言ってる?」
「ケリーさんを呼び捨てにしないでよ」
 デイヴはロブの訴えを無視してパソコンを自分のほうに向けると、
「……『まあ俺たちSLAYERがMACHINE HEADみたいに魂売ることはないと思うけどな』」
 ケリーの発言を読み上げ、
「つまらん。どうせなら、もっとこっちが激情するようなこと言えばいいのに」
 パソコンをロブのほうに向け直す。ロブは何も言わなかった。
 しばらくデイヴは流れている音楽に耳を傾けていた。そうしながら、さみしげなロブの横顔を見るともなく見ながらビールを飲んでいたが、缶をテーブルに置くと、
「なあ、今日せっかくポールが来てるしさ、訊いてみないか?」
「何を?」
「あいつがSLAYERを辞めさせられた理由」
「……自分から辞めたんでしょ? 肘が悪いからって」
「おまえはなんでも信じるんだなあ」
 デイヴが笑って言うと、ロブはなぜか「いや、まあ」などと嬉しそうに呟いている。勝手に『素直』という意味に取って、喜んでいるのだろう。
 ポール・ボスタフは、4ヶ月前、2001年の終わり、突然SLAYERを辞めた。
 その理由に関して、様々な憶測が広がっている。デイヴはそのなかに、『ケリー・キングとそりがあわなかった』という噂があることを知って、直接本人に訊いてみようと思った。
 サンフランシスコ出身であるポールは、ロサンゼルスを拠点にしているSLAYERを辞めると、地元に戻ってきていた。
 そこでデイヴは、ドラマー同士でもあるし、今後同じ土地で活動をしていくということで、歓迎の意を込め今日も招待したのだが、本当はSLAYERの話をしたかったのだ。
「ちょっと外行こうぜ」
 リビングの窓際にポールを見つけると、デイヴはロブの肩を叩いて立ち上がった。
 
(10につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm