「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」7

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

7.
「ケリーさんは元気か?」
 ロブは背の高い機材車のあいだを歩きながら、ポールに訊いた。
 本当は、『ケリーさんに会う前におまえに会えてよかった、感謝している』と言いたかった。
 ここに来るまで、自分の心が弱っていたことはわかっていた。それが、自分の本来の強さを取り戻せたのは、ひとえにポールのおかげなのである。顔を見ただけで勇気が湧く……。そんな存在を持っている俺は、幸せ者だ。
 というようなモノローグを心のなかで展開し、目頭を熱くしているロブに、ポールは、
「うーん、どうなのかな。俺、SLAYERのメンバーとは気づくと別行動してるんだよね。ステージでは会うんだけどね、でもホテルとか、俺いつもスタッフと一緒にいるんだよね。部屋のグレードもなぜかスタッフと一緒だし。たまにこれは村八分って状態なのかな、とか思うんだけど、気のせいだよね、はは」
 車のあいだを抜け、機材の搬入口に向かう。
 ロブは、ポールの発言にどう反応していいものか、考えた。妙に、『村八分』という言葉がひっかかる。
 ケリーはそんなことをする人間なのだろうか?
 いや、きっと、ほかのメンバーが意地悪なのだ。ケリーは、そんな性悪なほかのメンバーともたまにはレベルを合わせる必要がある、などの賢明な判断により、ポールと距離を置くこともあるのだろう。
 今日、こうやって来たのは、ケリーさんを疑ってるからじゃない。
 バックステージに足を踏み入れ、少し緊張を感じながら、ロブは心のなか、ケリーに語りかけた。ポールのことはもちろん忘れている。
 100%、わかって来てる。俺たちの悪口だって、でっちあげられたものに違いないし、そういう意味で、ケリーさんこそ被害者だ。今日もきっと、俺の顔を見たら、いつもみたいに「来てくれたのか」と両手を広げてくれる。きっとそうだ。そして――。
 ロブは自分の前を歩くデイヴの背中を見た。ドラマーにしては華奢な背中。この背中を、これまで何度ある種の憧れの気持ちを持って眺めてきただろう。
 おまえがいてくれなかったら、今日俺はここに来られなかった。口では素直に気持ちを伝えられないが、ほんとに頼りにしてるぜ、デイヴ。
 また感謝を胸に漲らせるロブなのであった。
 
(8につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm