「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」3
下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。
3.
「何かあった?」
ロブが部屋の奥、丸いテーブル横にある椅子に座ると、デイヴは訊いた。自分はベッドに座る。
ロブはテーブルの上にあるノートパソコンのあたりに目を落としていた。アイルランド系にもラテン系にも見える顔立ちは、彼の繊細さと陽気さ両方を的確に表している。
「ケリーさんが……」
ロブが小さく言った。
彼らの音楽ジャンルにおいて、「ケリーさん」と言えば、ひとりしかいない。
SLAYERという、キャリア20年になんなんとするベテランバンドのギタリスト、ケリー・キングのことだ。
ロブはケリー・キングより半世代ほど年下だったが、ケリーがMACHINE HEADをいたく気に入っていて、デビュー当時から親しくしていた。
「ケリーさんがどうかしたのか?」
「さっき自分の部屋でネットやってたら、ケリーさんが……俺たち……」
「言う前から涙ぐむなよ。ケリーさんに何かあったのか?」
ヘヴィロックシーンで「野生児」の異名がつくロブ・フリン、正しくは「ガラスの野生児」だろう。
ロブは息を整えるためか一度肩を持ち上げて息をしてから、
「ケリーさんが俺たちの悪口を言ってるのを発見したんだ」
抑揚なく早口で言った。
デイヴは続きを待ったが、視線を落とすロブの口からは、それ以上情報は出てこなかった。
デイヴのなか、まず浮かんだ言葉は、『それだけ?』だった。だが、過去にこれを言ってロブを2時間トイレにこもらせたことがある。危険だ。
「ネットで悪口って、ネットのインタビューか何か? 何て言ってたんだ?」
「MACHINE HEADはもうヘヴィじゃない、売れることしか考えてないとか……新しいアルバムに失望したとか……」
涙声のリーダーは、電源が入っていたデイヴのパソコンで勝手にインターネットに接続し、問題のインタビューを検索しているようだった。
デイヴは、ロブの部屋のパソコンを見たほうが早いと提案しようとしたが、移動が面倒だと思い直し、口は開かなかった。
ところで、SLAYERのケリー・キングが「ヘヴィではない」と失望したらしい新しいアルバムとは、この2001年秋に出たばかりの『Supercharger』という作品だ。今まさにそのサポートツアーでヨーロッパにいる。
MACHINE HEADが軟弱になったという批判は、前作から聞かれた。バンドとしては、やりたいことをやっただけなのだが、ボーカルスタイルにラップの影響を取り入れたことは、多くの評論家やファンに受け入れられなかった。
そのぶん、新規のファンを開拓できたわけだが、それに「売れようとしている」という批判が続くのは、この世界ではよくあることだった。
いくらロブが繊細とは言え、すべての批判に傷ついているわけではないことは、デイヴにもわかっていた。
ということは、やはりしょんぼり病が発病した原因はケリー・キングだからか。
デイヴは、パソコンを操作しているロブを眺めていたが、ロブは悲しみで根気が続かないのだろう、マウスから手がゆるゆると離れた。
その力ない動きを目にして、デイヴは嬉しくない確信をせざるを得なかった。
これからまた朝までロブの守りかよ……。
うんざり気分を散らすため、立ち上がってミニバーのウィスキーを手に取った。
(4につづく。)
全編はこちらにupしてあります。
→http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm