「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」1
下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。
1.
デイヴ・マクレインは初め、それを空耳だと思った。
パリのホテルの一室、扉がノックされたような気がしたが、自分を呼ぶ声が続くわけでもなく、午前3時の静寂、今のはやはり空耳だったのだろうか。
あと数時間で陽がのぼるが、デイヴはベッドに入っていたわけではない。
ドラマーとして所属しているバンド、MACHINE HEADのライヴが終わったのが午前0時。ホテルに移動してシャワーを浴び、1階のバーでバンドメンバーと少し呑んで、戻ってきたところだ。
デイヴと一緒に、ボーカルとギターを担当しているロブ・フリンもバーから引きあげて、自分の部屋にいるはずだ。残りのメンバー2人は別の店に移動した。
スタッフも、どこか外で呑んでいるのだろう。グルーピーの女たちも外出組と行動しているのか、2001年のヨーロッパ・ツアー、いつもより静かな夜だった。
そこに、また聞こえた。ドアのあたりで、音が。
しかし、それはやはりノックと断定できかねる遠慮がちな音で、デイヴは数秒考えてから、長袖Tシャツの上にダンガリーシャツを羽織り、ドアの前まで移動した。外に足音が漏れないよう、ゆっくりと。
ツアーでは夜型の生活になるから、こんな時間でも人の行き来は普通にある。
だが、今日は廊下に人の気配はなく、デイヴに少しの警戒心が働いていた。
扉についている覗き穴に目を近づけると、黒い頭が見える。短髪だ。
デイヴの所属するMACHINE HEADは、長髪がトレードマークのヘヴィメタルから派生したヘヴィロックをやっている。が、時代は21世紀、ヘヴィロックシーンの長髪人口はどんどん減っていた。デイヴ自身もブロンドの髪を短く刈りこんでいる。
覗き穴から頭しか見えないのは少々不気味だ。デイヴは目を細めて廊下にいるのが誰なのか把握しようと努めたが、相手が動かないのでどうしようもない、
「誰?」
わざとぶっきらぼうに声を出した。
相手は動かない。苛だち始めたデイヴがいったん扉から体を離したときやっと、
「俺」
さきほどからのノックと同じく、覇気のない声で答えが返ってきた。
「ロブかよ」
バンドのリーダー、ロブ・フリンだとわかり、デイヴはドアのチェーンに手を伸ばした。
物取りのたぐいでなかったのはよかった。
が、ロブが文字通りうなだれているということは、またこのバンドに波乱含みの日々が待っているということで――。
そんな予感を持ちながらデイヴがドアノブを回す、ドアを開ける、と冷えた廊下には、両手におもりでもつけているかのように肩を落としたリーダーが。それなりに見栄えするはずの体格も、今は貧相にしか見えない。
ロブは大儀そうに悲しげな顔を上げて、
「やあ」
空気が抜けたように言った。
ああ、またこれか。
デイヴも脱力したくなった。
(2につづく。)
全編はこちらにupしてあります。
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