「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」5

下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。

5.
 デイヴはロブになんと言っていいかわからず、しばらくグラスを揺らすことに集中していた。
 本来ならば、『別に嫌われたっていいじゃん』とか『ネットのインタビューを信じるなんてアホか』で終わらせるのだが、そんなことをしてしまったら、多分明日のミラノへの移動は不可能になるだろう。ロブがまたどこかに隠れてしまって。
 めんどくせー。
 心のなかで呟いてから、デイヴはグラスを振る動きを止めると、
「きっとインタビュアーが勝手に書いたんだよ。おまえ、SLAYERと仲がいいから、ちょっと仲を引っ掻き回してやろうとか、この業界、そういうのあるじゃん」
 これでとりあえず浮上するだろうか。ロブの表情をうかがう。ロブは口元からゆっくり笑顔になって、
「そ、そうだよね。ね。ケリーさんが俺たちの悪口言うはずないもんね。ね。いやあ――」
 と肯くように一度頭を傾けて戻すと、
「そうだよな! なんせ、ケリーさんのほうが、MACHINE HEADから影響受けそうだなんて言ってたことがあったんだもんな」
 普段の、自信漲る声と口調に戻っていた。
「俺としたことが、ケリーさんの友情を疑うなんて、不覚だったよ。デイヴもたまにはいいこと言うなあ、がはは」
 部屋を訪ねてきたときと比較すると3倍ほどの声量で言って、デイヴの肩をばしばし叩いてくる。
 しかし、すぐに眉を下げると、
「でも……ほんとだったらどうしよう」
 デイヴの肩の上にあった手を自分の膝に戻し、猫背になる。
 デイヴはうんざりしたのを隠せずに、
「あーもう鬱陶し――」
「え?」
 こういうときでもロブの耳は鋭い。
「あ、違うんだよ、ええと、いやあ、ほんとだったらどうしようなあ、まあケリーさんも今回のアルバムだけ気に入らなかったのかも知れないし――」
「なんで?」
「いや、わかんないけど」
「なんで?」
「なんでって言われても」
「なんで?」
 おまえは幼稚園児か、とデイヴ、心のなかでつっこむ。そしてどうごまかそうか考えようとしたところ、あることを思い出した。
 SLAYERも今まさにヨーロッパ・ツアー中なのだ。互いの日程によっては、すれ違う可能性もある。
「なあ、おまえ、SLAYERのマネージャーのケータイ番号知ってる?」
「家に帰ればわかるけど、今はさすがに……でもなんで?」
「ケリーさんに直接確かめるんだよ」
 デイヴが言うと、ロブは「直接ぅ? うわあ、怖いなあ」と呟いている。精悍な顔立ちが滑稽に見えるほどの、か細い声で。
 デイヴはロブに気づかれないよう、かすかに頭を横に振ってから、
「メールは? 本人のアドレス知ってるだろ?」
「お返事来なかったらショックだし……」
 あまりに情けない返事に、むしろデイヴのほうがショックで、ロブに気づかれないよう一度固まってから、
「なら……今、SLAYERもヨーロッパ・ツアー中だろ」
 言って、パソコンでSLAYERの公式サイトに接続し、ツアー日程のページを開いた。
「明日の昼、俺たちはミラノに移動する。ミラノ公演自体はあさってだから、明日は午後からフリーだ。で……明日SLAYERがどこでライヴをやるかと言うと……」
 デイヴはパソコンの画面をロブのほうに向けた。
「ミラノだ」
 
(6につづく。)
 
全編はこちらにupしてあります。
http://homepage3.nifty.com/kreutzer/KiokuStoriesKingFlynnInt.htm