「キングがいく-MACHINE HEADによる被害報告編」4
下記はSLAYERとMACHINE HEADを茶化すために書いたフィクションです。
4.
ケリーさん? これほんとにケリーさんが言ったの? インタビュアーがでっちあげたんだよね? あんなにMACHINE HEADのこと好きだって言ってくれたのに。
というような語りかけに、ロブの頭は占拠されていた。
この手の音楽のファンで、SLAYERに心酔してないヤツなんていない。
もちろん文字通り事実ではないが、ロブは10代のころから、そう信じてきた。
決して平穏ではなかったロブの10代後半、心の傍らには、SLAYERらいくつかのバンドが作りだす、強烈なエネルギーを放つヘヴィな音楽があった。
19歳のときにあるバンドに加入、そのバンドがそこそこ知られるようになり、5年後、ロブはMACHINE HEADを結成。
その、どこか新しくありながらもメタルの筋を通しているサウンドを手放しで評価した人物のなかに、SLAYERのケリー・キングがいた。
SLAYERは、ヘヴィな音楽がまったく一般的でなかった時代、人々にそしられ笑われながらも自分たちのやりたいことをやり続けたバンドだ。
70年代後半から、通常のロックより重い・うるさい・速いという特徴を持ったバンドが増えてはいたが、SLAYERがまったく新しかったのは、彼らの音楽が『危険』だったことだ。
80年代中盤に作られたアルバムは、歌詞はもちろんのこと、音像自体が危険すぎるという理由で多くのレコード会社がリリースを避けた。
それが今では歴史的名盤となり、21世紀に入った今、SLAYERはヘヴィロックシーンにおける最重要バンドのひとつとなっている。
だから、ロブにとって、SLAYERのケリーが「俺はMACHINE HEADの大ファンだ」などと雑誌で言う、これは事件だった。
そんな『事件』のあと、ロブがケリーと初めて会ったとき、ケリーはロブに対して一切先輩風など吹かせなかった。それどころか、まるで普通のキッズのように、満面の笑顔で言ってくれた。
「MACHINE HEADは最高だ!」
ロブはあの笑顔を忘れてはいない。
ケリーは、外見的にはスキンヘッドにしたり、ホラー映画に出てきた刺青を入れまくったり、硬派中の硬派である。
が、イベントで何度か会ううち友人としても意気投合したロブは、ケリーがその外見と裏腹に愛嬌いっぱいの男であることを、よく知っていた。
いや、知っていたはずだった。
「どうしよう、ケリーさんに嫌われちゃったのかなあ」
パリのホテル、デイヴの部屋で、ロブは弱弱しい声で言っていた。意識を集中していないと、不安に涙が滲んでしまう。
デイヴは「うーん」と言いながら、ウィスキーの入ったグラスを小刻みに振っている。氷のぶつかる音がロブの耳に届き、それにデイヴの力強い励ましが重なるのを待った。
ほっそりとした顔の輪郭と切れ長の目、デイヴのそんなところに、ロブは自分にない鋭い知性をみる。ロブ自身も切れ者とは言われていたが、エッジの鋭さは、デイヴのほうが上だ。とロブは思う。
ロブはデイヴのドラマーとしての才能にも惚れこんでいたが、仲間としても全幅の信頼を置いていた。
普段、バンドのリーダーとして、過剰に元気で勢いのいい男でいるよう努めているからか、ロブは心労がたまると何もしたくなくなる。
デイヴがバンドに入るまでは、自分が止まるとバンドも止まるのがわかっていたから、ムリをしてでも溌剌さを演出していた。が、デイヴが入ってからは、リーダー役を休みたいときは心ゆくまで休めるようになった。
たまに、「なんでそんなことで悩むんだ?」とか「言いたいことそれだけ?」とかストレートな言葉がデイヴから返ってくることもある。いったんは傷ついてひとりきりになれる場所に移動するのだが、『デイヴはほんとに俺のことを考えてくれてるからこそはっきり言ったんだな』などと悟ったときは、これまた感激で目頭が熱くなった。
ほんとにデイヴと出会えてよかったなあ。
ロブはケリーのことはしばし忘れ、デイヴが今ここにいてくれることに、心震わせて感謝していた。
(5につづく。)
全編はこちらにupしてあります。
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